俺に出来る事はそれだけです。
BLに関する雑談をしたり、BL要素を含む成りきりの募集をしたりするための掲示板です。
俺に出来る事はそれだけです。
俺の名を呼ぶ柔らかい声が今日も聞こえた。幼少期から、誰とも知らぬ声が。
俺の名前を呼んで離さない。小さな其の声は、遠い様で近くて身悶えしそうになる。
歳を重ねるにつれてより鮮明に回数も増え、頭の片隅に何時も住み着いている。
目が覚めて重い頭を擡げる。
ここ数日炬燵で寝起きする身体は不自由そうに身体の節々から音を鳴らす。
古びたブリキの人形の様だ。
ログアウトせずに放ったままのPCを見遣り毎度ヒヤヒヤさせられる。データーが飛べば俺の魂が削れたも同然だからだ。
寝る寸前に保存していた自分を少し褒めてやりたくなりながら安堵した。今日もデーターは無事だったようだ。
起き抜けの目覚ましに此処を開いて適当に何か綴っている。題なんてない。散文。
大抵は貴方の事か、俺の実体験で成り立っている。
桑の花言葉は、共に死のう。
「……、……、…」
ボヤけて聞こえない言葉を確かめる様に、快楽に肩を震わせ口裾から雫垂らして指を欲しがる彼の頭に顔を寄せる。もっと良く聞こうとしたのだ、彼の甘く愛しい声を。
「……、…」
また聞こえない。音は伝わってくるのに、言葉は伝わってこない。もどかしさに身悶えしそうになり腰を緩めてしまう。
物足なそうに蕩けた顔で彼は此方を見た後、世界で一番優しい口付けをした。
彼の柔らかい唇と爽やかな汗の香りに意識を狩られた。
彼は元い、病弱で療養中の身でありました。その為兵役も免れていたのです。
しかし彼は蒼白で少しの風で飛んでしまいそうな細身の身体で毎日の様に家に客人を招いては夜遊びをされていました。
俺はその時、ただの隣人でありましたから、口を出す権利など到底ありません。一目惚れで、密かにお慕い申していた事も当然黙っていました。
ある日、配給へ物資を取りに行った折に彼の玄関先を通り掛かると丁度数日前から邪魔していた客人が帰るのが見えました。
華やかな髪型に、絹の洋装の出立ちの彼らは俺とは掛け離れた存在に思え遠ざかるまでぼんやり眺めていた時、彼の玄関先で何かが倒れるような音が聞こえたのです。
ガタン、と何かが壁にぶつかる様な音の後に小さく彼の声が聞こえた。
「大丈夫ですか!」
彼が何時もより一層顔を白くさせて床に崩れ落ちる様が頭に過り、反射で身体が動いていた。
「大丈夫だよ、そんなに慌ててどうしたんだい。」
くすり微笑む彼の足元に柿が落ちていた。
なんだ。
柿を落としたひょうしに足にぶつけただけじゃないか。そうわかった途端、後悔が襲った。
「いえ、なにも。音が聞こえたので、つい。その。」
頬が熱くなるのがわかる。口の中で舌が石のように硬くなって口篭り頭を掻いた。
「大丈夫じゃないのは君の方だろ。顔が真っ赤じゃないか、熱でもあるのかな。」
彼が妖艶な笑みを浮かべて細く、夏なのに冷えた手で俺の頬に触れた。背伸びをして。
「いえ、熱はありません。」
口早に告げる。なんて格好悪いんだろう。
「そうか、柿は好きかい?一人では食べきれないんだ。」
足元の柿を手に取れば両手で撫で回すように埃を払って顔の横へ擡げて、首傾げた。
あぁ。知っているんだ。この人は。
雄がどうすれば惹かれるか熟知している。
きっと他の人にもこうしたんだろう。
俺も同じ穴のムジナだ。
そう分かっていながら、彼の手を取った。
これが彼との他愛も無い出会いでありました。初めて言葉を交したのです。
彼は、俺の行動を可愛らしいと忠犬の様だと何時までも微笑んでおりました。
さも楽しそうに。そんな顔をされては、此方としても難癖付けられずただ苦い顔をして笑われるばかりでありました。
貴方の甘い香りにゆるもびて、俺の唯一であった文才など何の価値も持たなくなってしまった。
もう暫く何も手に着きそうにない。
はて何日か経て。
俺の時間は残り少ないようです。
半年だと言ってましたが、2ヶ月が峠のようです。気力したいだと医者は言いますが俺にはどうもその気力は沸きません。
俺が死ぬ時貴方が泣いてくれないと仰ったので、それでいいと思います。
俺なんかの為に流す涙が勿体ないとどの口が言えたでしょう。偽りだと貴方は気付いているでしょうか。俺が死ぬ時せめて一人くらいは心から悲しんで欲しいものですね。
手術を受けるのか、延命をするのか。
そのまま死ぬのか。
自分で今週末迄に御決断をとの事でしたが、未だ迷っております。
無口でありながら妖艶な笑みを携え俺の人生を振り回した、自らの寝床へ誘い込むのが上手な彼は。
利発そうに見えて実は子供のような純粋さを兼ね備え、思わず手を伸ばしたくなってしまう彼は。
口調が文豪の様で、同族嫌悪感で俺が毛嫌いしたキザな狡い彼は。
口が達者で盛りの着いた猪の様に真っ直ぐで、その懸命な顔に手を添え振り回したくなってしまう彼は。
拙い言葉の紡ぎが愛らしい、素直でただ清純で自らの手で汚すのがはばかられた彼は。
綿毛のようにふわふわと、太陽の匂いがしそうな笑顔を向ける彼は。
欲が無く、気に食わないとすぐ噛み付いて自分の唯一の欲に抗う天邪鬼な彼は。
男前でよくモテていて嫉妬からか俺が毛嫌いした彼は。
登録した名ももう役割はなさそうですね。
貴方とは会えないのでしょう。
俺が人生で初めて心から愛せると誓った彼は。
何処かで幸せでいて下さい。
来世で俺の素敵なお嫁さんになって下さいね。
病床で来世ではと今世にお別れを告げたにも関わらず厄介で厚顔無恥な俺の魂はひょいとまた身体の中へ入り込んで、健康体まで手に入れてしまいました。
実は戻って来たのは二週間程前なのですが、此処へ貴方に向けて何か書くのを躊躇っていました。今更、どんな顔をしてどんなことを書けば良いのでしょう。此処から去るのが貴方の中の俺と、俺の中の愛しい貴方を守る方法だと言うのに頭では分かっていても止められそうにありません。
此処を貴方が見てくれるかどうかも定かではありませんが、もう一度貴方の眼前で歯の浮くような言葉を並べさせて下さい。それで俺に興味など無くて俺の横には一生誰も居ないと痛々しい程分からせて下さい。
一度死にかけたくらいでは貴方への気持ちは変わりはしませんでした。
ただいま。今日は少し遅くなってしまって、でも貴方はまだ帰って来て居ないみたいですね。また貴方に会えるかもしれないと思うと少し生きることに希望が見えそうな気がしますが、無駄な期待はしないでおきます。
ただいま。夢の貴方をまたお慕いする日々が続きそうな予感が致します。
俺の方は、何時までも嫉妬と恨めしさに流されることもなく貴方の笑顔が垣間見える場所か、もう少し遠くで酔狂な活路を望んでみようかと思います。
ただいま。彼処で貴方の姿だけを見詰めて恋い焦がれる日が早一年経とうとしています。時の流れは恐ろしいもので、黒髪に混じる銀糸の数も目立つようになりました。貴方より幾つか下であるのに貴方より老け顔になってしまったかもしれない。貴方は何時も俺を楽しませてくれた。俺に興味などないとあしらう貴方も、恋人の事を伏せておきながら確かな愛情を知らしめる貴方も、とうの昔の事に感じます。貴方が幸せならそれでよかった。
その横に、俺が、図々しく居座る事なんて傲慢にも程がある。わかっています。
一年、たった一年を貴方と下らん病に浪費して。とても幸せな気持ちです。
来世でなんて言っておいてなんだと仰られるかも知れませんが。来世もその次も貴方が俺の横で微笑んでくれる自信がありません。俺の来世はきっと虫けらでしょう。アメンボか、蛆か。良くて七日で命を散らす蝉です。
貴方に踏み潰されるなら死骸を脚で蹴飛ばされるなら、心地が良い気さえします。