矢印に添える配信開始、の文字。こんな腐った世界で、こんな腐った人生で、たったこれだけが、俺の、居場所だなんて。
「こんばんは」
静寂ばかりだった部屋に、突然散らばる自分の声が不思議で堪らない。増えないままの閲覧数。自分は、何処に、何に、話しかけているのか。酒が回った頭は、適切な言葉も、心も、何もかもを曖昧にした。最低な気分だ。最低な、気分だ。縋るように喉をカリカリ、と、爪でなぞる。思えば、何が不満だったのか。わからないことばかりが故に、涙も出ない。ただ乾いた、こころの湿し方を、ずっと探していた。
「あは。あはは、ごめんなさい、あー…えっと。」
ボタンに手をかける手が震えたことは、一度もない。慣れたように、指が俺の居場所を覚えている。ひとつずつ、丁寧とは言い難い手つきでボタンを外す。閲覧数1.閲覧数0。誰かが来ては、俺を見放す。死に損ないの、寂しい俺を。まあ、この時代。愛に飢えた人間なんて、売れやしないのだ。
「……ッ、ああ、こんばんは、はじめまして、俺の、名前は、」
惨めな、自分を客観的にみていた。閲覧数がひとつ増える。期待をする。話しかける。誰もいなくなる。ただただ、空になるようだ。そんな心が虚しくて、何を間違えたのか。欲情に良く似た冷たい熱が、足先から体に集まっていく。惨めだ。寂しい。誰もいない、俺は、こんな無様な状況に何処か興奮している。誰も、いないというのに。気が付けば、いつものように、性器は立ち上がっていた。