あなたは、毎日一枚のビスケットを貰うことが出来ます。
鼠であるあなたにはそれで十分。それを齧っていれば満足して一日を過ごすことが出来ます。
ここまで、良いですね?
さてある日、あなたがいつも通りビスケットを貰うと、どこからともなくこねずみがやって来ました。随分お腹を空かせているようです。
腹を空かせているこねずみを無視する訳にはいきません。
仕方なくあなたはこねずみにビスケットをみんなやりました。
次の日、あなたがビスケットを受け取ると、並んだこねずみもビスケットをもらいました。
食べ終えたこねずみはまだ空腹なようで、あなたのビスケットをねだります。
育ち盛りだから仕方ない。あなたはそう思いビスケットを半分やりました。
毎日ビスケットを貰っては、その半分をこねずみに取られる生活が続きます。
しかしながら、日の食事が半分に減らされてしまってはさすがにお腹が空きます。
あなたは外に食べ物を探しに出ることにしました。
幸運にも、パンの切れ端が見つかりました。ぱさついておいしくはないけれど、お腹は満たされます。
巣に持ち帰るとこねずみが寄ってきました。
ちょうだい、そのパンちょうだい
とんでもない、これはやっとのことで手に入れた食事。これ以上奪われてなるものかとあなたはパンを抱えて逃げ出します。
どうしてくれないの、少しくらいいいでしょう、こねずみはちぃちぃ叫びます。
あなたはその次の日から、見つけたパンくずすら、隠れて急いで食べてしまうしかなくなってしまいました。
あなたはこのこねずみを好きになれそうですか?
……いや、大した話では無いのです。しかしこれは世の中に溢れている話で、その立場であった人にとっては何の話かすぐに見当がついてしまう。そんな内容のはずです。
ビスケット、子どもの頃は大きく感じられたのに、今やその気になればひとくちに収まる代物になってしまいましたね。
あの頃欲しかったおおきな丸いビスケットは、きっともう、この世のどこにも無いのでしょう。