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プールの授業の後の国語の授業は眠たかった。乾き切らない髪の毛先から滴る水滴が真夏日が燦々と照る教室の中で僅かに冷たく何処か心地良くて、塩素の匂いとシーブリーズの匂いが教室中に充満していた。
当時の教室にはクーラーなんて画期的なものは無くて、教室内に2つ程度配置された首の回る扇風機だけが唯一の風だった。でも当然、それだけの風では夏日の暑さに対抗できなくて、皆下敷きで自分を仰いで風を作っていた。それでも暑かったけれど、校庭から聞こえる体育の声が子守唄のように聞こえた。
もう訪れないのだ、そんな夏は。僕らが思い描いた夏は、あの頃にしかなかった。会社と自宅を往復するだけの日常。アスファルトから照り返る熱に額に溢れる汗は憂鬱でしか無く、電車の冷房を求めて歩く足を早めるだけ。
大人になった僕に特別な夏など、もう来ない。