はじめまして。
あなたは俺と会ったことがない。俺もあなたを一つも知らない。
過去から今を経由して未来まで、あなたが俺の人生史に名を刻むことはない。
そうだとしても、額に雨滴を受ければ空を見上げてしまうように、あなたの気配を感じればそれを思わずにはいられない。
二月の暮れはまだ春じゃない。春はまだ遠くある。
それでも風が温かさを運んでこれば、花の香りを漂わせたなら、春を思わずにはいられない。探さずにはいるのは難しい。
それと同じこと。
あなたは今もあなたの人生を生きている。そこに俺が交じることはない。
俺はあなたのことを考えるけど、あなたはきっと洗剤の減り具合を気にしてる。
いずれ俺の中からも消えてしまう。
それでもこうして考えているときは、あなたのことを知っているような気がする。
何一つ知らないあなたのことを。